2017年度生活学プロジェクトの採択プロジェクトの概要

2017年度も、前年度に引き続き、数多くの応募をいただきました。限りある予算の中で、採択を受諾された13(個人またはグループ)の応募者の方に感謝いたします。以下概要を紹介します(順不同・申請代表者の方のみ記載、文体は申請通り)。

  • 研究テーマ:明舞団地における「整理収納モノ」研究
    申請代表者:小林 朗子(武庫川女子大学 大学院)
    モノとの関わりは生活する上では断つことはできない。高齢社会において、日常の整理や住み替えの際の整理、生前整理など高齢期においてモノとの関わりがもたらす影響も変化していく。その中で今後の高齢社会において、モノをどのように整理収納を進めていくことが個々にとって望ましいのか、兵庫県の明石市と神戸市舞子にかかる明舞団地での事例を収集し、整理の仕方やモノへの考え方、特性を研究する。
  • 研究テーマ:都市の水辺利用を支える「親水型コミュニティ」の活動展開とその実態調査
    申請代表者:菅原 遼(日本大学)
    近年、都市の水辺への市民意識の高まりに伴い、水辺利用に係わる組織・団体が多様化しており、特に水辺利用を意図した都市型コミュニティが多主体間を繋ぐ中間的組織として機能してきている。本研究では、こうした都市の水辺利用を支える「親水型コミュニティ」に着目し、その活動展開の実態と多様な組織・団体間における都市の水辺特有の課題点を捉え、今後の都市の水辺の公私計画・マネジメントのあり方を検討する。
  • 研究テーマ:社交料飲業における親密性および公共性研究
    申請代表者:小関 孝子((一社)社会デザイン研究所)
    2017年度の調査では、2016年度の調査結果をふまえて、銀座における社交料飲業の「業態」がどのように変化してきたのかについてまとめたい。具体的な作業としては、明治から現在に至るまで、新聞雑誌など各種メディアで「夜の銀座」がどのように描かれているのかを拾い集め、商業史の文脈で銀座研究を行う基礎固めを行う。特に、戦前に流行していたカフェーの「女給」がどのような生活を送っていたのかについて調査する予定である。
  • 研究テーマ:室内犬、完全室内飼いのネコと人間の生活の実態調査-京阪神の戸建住宅でのケーススタディ
    申請代表者:壽崎かすみ(龍谷大学)
    京都市内および阪神間の住宅地で犬や猫を飼育している人が、犬や猫とどのように同居しているかを調査する。2016年度はマンションで犬を飼育する人の状況を中心にデータを集めたので、2017年度は、マンションでの猫飼育、戸建てでの猫飼育、そして、戸建てでの犬の飼育に範囲を広げて調査する。犬の飼育については、マンションでは管理規約等の関係から小型犬(チワワなど)を飼育する人が大部分だったが、戸建ての場合は中型(柴犬など)・大型犬(ラブラドールなど)の飼育者が一定数いると予想され、その意味でマンションとは異なる実情が確認できると予測している。猫についても、マンションでは管理規約の関係で完全室内飼育のみだったが、戸建ての場合は室内と室外を自由にさせる飼育方法をとる飼育者のケースがみられることが予測される。
  • 研究テーマ:過疎化する農村集落の活性化、集落に残る民家の活用、中・高年者の集団による地場の伝統技術を生かしたものづくり、生涯現役で生き抜く生きがいを有機的に結ぶプロジェクト2
    申請代表者:金田正夫(無垢里 法政大学)
    新潟県高柳町荻ノ島集落において、永く育んできた技術や地場素材を生かしたものづくりを通じて、生涯を現役で生き抜く人生、環境との共生、村の活性化、空き家民家の活用を有機的につなげる試みです。昨年は地場の粘土を使った民家土壁塗り、陶芸釜の製作、囲炉裏造り、和紙作り、葛糸造りが試みられました。今年度は定住者を迎えて無農薬の野菜・米の生産・加工・供給が加わり、村の生活に緊密に関わる第二段階に入ります。この試みが現実化できるなら他地域の空家民家活用・過疎の解消・生涯現役の生活つくりに発展させていくことができます。
  • 研究テーマ:「その場所」で暮らすことの現代的諸相~新潟県十日町市鉢集落におけるエスノグラフィー~
    申請代表者:清水 健太(早稲田大学大学院社会科学研究科)
    暮らしを営む場所はますます恣意的に選択されるようになっている。その中でなお人が「その場所」で暮らすことの意味を再考することが、本プロジェクトのテーマである。
    新潟県十日町市鉢集落は、中心部から9キロほど離れた山あいにある人口150人程の集落である。集落には「真生会」という青年組織がある。真生会の活動を通じた集落への関わりは、真生会の人々にとって、鉢という集落に暮らす意味の重要な部分を占めていると考えられる。その意味がいかにして生成されるのかを、参与観察とインタビューを通じて読み解き、理解することを目指す。
  • 研究テーマ:地域と生活に根ざしたおんぶひもの研究
    申請代表者:園田 正世(東京大学大学院学際情報学府)
    本調査では出雲市の染色工房および郷土史資料を調査し、子育てに欠かせないおんぶ具の変遷と全体像理解を目指します。日本では「おんぶ」が長い期間にわたって行われてきたことが絵巻物や写真などで確認できます(大藤,1968,黒田,1989,須藤,2001,他)が、身近にあるキモノの帯や布を縫い直して流用していました(阿部他,2014)。現存する地域の特色が残る独自のおんぶ具制作及び歴史調査を行います。
  • 研究テーマ:「家」としての守り方~野口英世生家と島薗家住宅を含めた生活の展示を対象とした調査・研究~
    申請代表者:本橋 仁(京都国立近代美術館)
    文化財として保存された住宅を対象に、その内部展示に焦点を当てることで、ソフトとしての「家」の残され方についての研究をおこなう。
    野外博物館における「演示品」や、ボランティアによる様々な活動による生活の演出は、まさに住み手の喪失を補完しようとするものといえる。こうした、生活・文化の展示の試みについて事例調査をおこない、「家」というイメージの成立要素、またその変遷を探る。さらに、本プロジェクトチームでは、2017年秋に東京都文京区の島薗邸での演劇、あるいはそれに代替される表現活動も予定しており、これら研究の展開として位置づける。
  • 研究テーマ:変化を迫られる葬儀と人々の対応~アフリカ・ボツワナ共和国に生きる狩猟採集民ブッシュマンを事例に~
    申請代表者:杉山 由里子(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科)
    ボツワナに生きるサンの生活は、国家のマジョリティであるツワナの文化や社会の在り方が国家の統一的なシンボルとなって国民統合が進められたため、伝統的な遊動・狩猟採集生活から定住・集住生活へと大きく変化している。葬儀もその例外ではなく、遊動時代の一様で簡単なサンの埋葬方法は、現在は時間と費用をかけるツワナ式の葬儀にかわっている。本研究はツワナとサンのそれぞれの葬儀の変化に注目し比較していくことで、サンが社会変容を背景にいかにツワナの葬儀を変化させながら取り入れているか、またその新しい葬儀の実践がサンの社会や生活において、どのように経験されているのか検討していくことを目的とする。
  • 研究テーマ:「トランスナショナルな生活世界」を社会にひらく映像ワークショップについての研究
    申請代表者:大橋 香奈(慶應義塾大学大学院)
    「トランスナショナルな生活世界」とは、異国の地に移住した人びとが、母国や他国で暮らす「家族」との国境を越えた交流を続けることで成立する。筆者は「トランスナショナルな生活世界」を生きる「個」の姿を映像によって描き出すために、6名の調査対象者に1年間に渡る映像民族誌的調査を実施してきた。その成果である映像民族誌作品を、広く社会にひらくために、上映と対話を組み合わせたワークショップを企画し実践する。
  • 研究テーマ:『婦女新聞』に見る大正期から昭和戦前・戦中期の裁縫文化に関する研究
    申請代表者:横川 公子(武庫川女子大学)
    実用記事を載せるようになった大正期から昭和17年(終刊)までの平和と人間尊重という『婦女新聞』の理念と実用記事の思想との重層的傾向に着目する。それを通して、時代に応じて、『婦女新聞』が発信した生活改善等の記事によって、女性の生活モデルと裁縫文化が担う歴史的・社会的な役割や生活の理想、女子高等教育への要請との関係性をあぶりだしたい。
  • 研究テーマ:左義長の社会的機能と空間的変遷に関する研究(滋賀県栗東市)
    申請代表者:笠井 賢紀(龍谷大学社会学部)
    滋賀県栗東市をフィールドにして、小正月の行事「左義長(さぎちょう)」の変遷を追う、昨年度の生活学プロジェクトの発展版です。1年目は2地区での聞き取り調査でしたが、2年目の今年度は範囲を市内全域に広げるとともに、空間的(地図)・時間的(年表)な把握と表現に試みます。左義長の調査を通じて、地域社会のあり方や子どもの社会化機会についても論じられればと考えています。
  • 研究テーマ:たのしくおいしく生活防災「カンパンキャンペーン」
    申請代表者:尾内 志帆(カンパンシスターズ(手の物語有限会社)
    乾パンは、食糧備蓄の代表として親しまれながらも、災害時以外に触れる機会は少なく、賞味期限切れの備蓄を抱える例も少なくない。本プロジェクトでは、「生活防災」の視点から、乾パンを日常生活のなかで楽しみながら活かす方法を探り、そのプロセスの情報発信・共有(冊子、WEB、イベント)により、食糧備蓄の効果的なサイクル方法を提案する。一連の実践を通じて、個々の防災意識の向上、ひいては自立・自律型社会の一助を目指す。なお、成果は来年度の学会大会で研究発表を行う。