2018年度生活学プロジェクトの採択プロジェクトの概要

会員皆様による生活学プロジェクトへのご理解・ご支援に感謝申し上げます。先日の総会で承認されました、2018年度生活学プロジェクトのうち、採択を受諾する回答がありましたプロジェクトにつき、その概要を紹介します(受諾回答順・申請代表者の方のみ記載、文体は申請通り)。

  • 【研究テーマ】塩田文化遺産を未来へ繋ぐ:「かしょい」を例に
    申請代表者】篠山浩文(明星大学 教育学部)
    日本における塩作りは、1970年代に全ての塩田が廃止され、効率性を重視した工場内製塩に大転換した。しかしながら、昨今、愛媛県の旧多喜浜塩田をはじめとする複数の旧塩田地域において、塩田復元と塩づくりといった塩田文化を未来へと繋ぐ動きが活発である。旧多喜浜塩田地域では、重労働である塩田作業から生まれた「かしょい(相手を思いやる・助け合う多喜浜塩田言葉)」の精神を子供達に伝えたいといった想いがその活動の原動力になっている。現代の我々に欠落しつつある「かしょい」の精神は、未来へと繋ぎたい塩田文化遺産の一つである。本研究では、「かしょい」をはじめとする塩田文化遺産を調査し、それらの未来への繋ぎ方について旧塩田地域住民とともに検討する。
  • 【研究テーマ】新しい食と旧い食:吉備中央町のハラルフードと郷土食を事例に
    申請代表者】笠井賢紀(龍谷大学社会学部・准教授)
    岡山県(とくに吉備中央町)をフィールドとして、食をテーマにした研究を進めるプロジェクトです。吉備中央町はハラルフード先進地であり、米粉のハラル認証取得や商品開発を進めています。他方、「くさぎ菜」という伝統的に郷土食に用いられてきたとされる食材に代表されるように、最近では食べられなくなってきたものもあります。伝統的ではなかったものの地方創生の資源として用いられる新しい食と、伝統的ではあったものの徐々に共有の経験が失われている旧い食が、地域の生活においてどのように受け入れられ共存・共生しているのかを探ります。。
  • 【研究テーマ】読書推進活動によるコミュニティ形成に関する研究
    申請代表者】沼田真一(早稲田大学 社会科学総合学術院 非常勤講師)
    横浜市では「横浜市民の読書活動の推進に関する条例(読書活動推進条例)」が平成26年4月1日に施行され、読書推進計画に基づき、各区で独自の読書推進目標が定められている。本研究は、筆者の参加する市民団体が中心となり、横浜市旭区において展開中である読書推進活動を考察するものである。具体的には、読書推進活動によるネットワークとコミュニティ形成プロセス、およびその特徴を論じたい。
  • 【研究テーマ】研究を社会にひらく「モバイル・ラボラトリー」:『移動する「家族」』の映像実践
    【申請代表者】大橋香奈(慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科博士課程)
    申請者は、国境をまたがるトランスナショナルな「家族」関係を営んでいる人びとが生きる生活世界の研究を映像民族誌的な方法で実践し、映像作品『移動する「家族」』を完成させた。本研究では上映会を、「家族」という概念の新たな解釈の可能性を検討するための「ラボラトリー」(加藤 2017)と位置づける。多様な参加者を招き入れるために、移動する「モバイル・ラボラトリー」として構想し、申請者自らが映像作品とともに各地の多様な場所に移動して上映会を実施する。
  • 【研究テーマ】「その場所」で暮らすことの現代的諸相:少年時代の経験が持つ意味を理解する
    【申請代表者】清水健太(早稲田大学大学院・博士後期課程)
    新潟県十日町市の鉢(はち)という集落をフィールドに、現代社会において人が「その場所」で暮らすことの意味を再考するプロジェクトです。今年度は昨年度の成果を踏まえ、住民組織・真生会の人々がなぜ真生会や他の集落活動に積極的に参加するのかを、少年時代の経験という観点から理解することを目指します。集落住民と関わり合う経験を少年時代に厚く積み重ねたことが現在の集落活動への参加に結びついている、という仮説に基づき、そのような関わり合いの機会が小学校や集落においてどのような形で設けられ、いかなる経験の場をなしていたのかを明らかにします。
  • 【研究テーマ】中国循環型畜産業における地域完結型バイオガス資源利用の課題と展望
    【申請代表者】張曼青(大阪大学人間科学研究科・博士前期課程)
    中国において産業化が進む中で畜産と耕種が分断し、大規模飼育場で発生した家畜排泄物が土地還元できず、農業汚染の中でもっとも問題視されてある。そこでバイオガス施設によるメタン発酵処理は再生可能エネルギーのバイオガスと有機肥料の消化液を同時に生成するため、利活用が期待できる。だが、バイオガスの受容性されない問題がある。本研究では農村住民のエネルギー利用にかかわる生活方式とコミュニティーの成り立ちを重視しつつ、バイオガス施設で生成したバイオガスの未活用の根本的原因を見つけ出す。
  • 【研究テーマ】南海トラフ地震の「予感」に関する研究:高知市御畳瀬地区の津波避難所に着目して
    【申請代表者】酒井貴広(早稲田大学・文学学術院助手)
    近年、高知県沿岸部の地域住民たちの間に、将来の南海トラフ地震の被害を高知県内外の災害から予想し加速度的に不安を増大させる心の働き――「予感」――が生まれつつある。本研究プロジェクトでは、浦戸湾西部に位置する御畳瀬地区の人々が抱く「予感」の特徴を、民俗学・文化人類学に依拠した聞き取り調査から明らかにする。さらに、得られたデータと先行する災害研究や公共性論との比較を通じて、御畳瀬地区の人々の防災・減災に寄与する具体的な方策を探る生活学的アプローチを試みる。