生ごみを調理用エネルギー源として再資源化 ―ウガンダにおけるバイオマス・ブリケットの生産と生活への浸透
浅田静香氏(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科*)

インタビューアー 真鍋陸太郎(東京大学)、笠井賢紀(龍谷大学)
この原稿はネット・インタビューを行った原稿をインタビューイー、インタビューアーが加筆するというやりとりを経て作成しました
*所属などはインタビュー時のものです

浅田さんご自身の研究フィールドとキャリアをご紹介ください。

私は京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究科(ASAFAS)で博士課程に在籍しています。専門はアフリカ地域研究で、特に東アフリカのウガンダ共和国で料理に使う燃料の研究に取り組んでいます。中心的なトピックとして扱っているのは、バナナの果皮などの生ごみから作られるバイオマス・ブリケット(biomass briquette、以下ブリケット)という固形燃料です。ウガンダでは2000年代から都市の中で、木炭の代替として使用できるブリケットが作られています。そのブリケットがどのように作られ、どうやって人びとの生活に受け入れられているかということが私の大きな研究テーマです。

浅田静香氏

浅田静香氏

ーこのテーマには、学部・修士のころから興味があったのでしょうか?

私の所属する大学院は5年一貫制で、大学院入学時から同じテーマで研究を進めています。学部は京都大学総合人間学部の文化人類学専攻を卒業しました。卒業論文では日本で、特に京都の人びとがどのようにごみを減らす取り組みをしているかということをテーマに扱っていました。卒論とのつながりで言えば、アフリカの人がごみをどのように処分(始末)しているかということが、アフリカでの調査における最初の関心でした。ウガンダの首都カンパラでは、生ごみから燃料が作られ、それが実際に料理に使われています。生ごみの処理方法でも、たとえばコンポストなどは日本を含めほかの地域でもよくみられます。しかし、料理に使う燃料にする、料理のときに排出されるごみからエネルギーを採るというのが新鮮で、おもしろく感じられ、ブリケットを中心的な研究トピックにしました。

ーアフリカに興味を持ったきっかけはなんでしょう?

大学1年生の時に一般教養の授業(共通科目)で、ASAFASが開講していた学部生向けの授業・ゼミを受講したのがアフリカに興味をもったきっかけです。大学に入学するまでは、アフリカについて知る機会がほとんどなく、あったとしてもニュースで紛争や感染症、貧困などの問題を見聞きする程度でした。大学院の授業を受け、人びとが生き生きと生活していることなど、アフリカの明るい面を知りました。そのようにして、アフリカの人々がどんな風に暮らしていて、それは私たちとどれくらい離れていたり近かったりするのかということに興味を持つようになりました。そのときから自分でアフリカに行って調査してみたいと思っていました。

ー学部生にアフリカに対しての興味を持ってもらおうと思ったのが奏功したんですね。総合人間学部は文学部の人類学のような分野の学部ですか。

ここはもともと教養部(教養学部)だったところで、文系でも理系でも受験ができるような文理融合型の学部です。所属する先生方の専門や学問分野は多岐にわたっており、自然科学・人文科学・社会科学のいずれにも及んでいます。学生は2年生へ進級する際に専攻を決めますが、私はそこで文化人類学専攻にしました。

研究論文賞受賞論文『調理用エネルギー源の選択における食文化の影響―ウガンダ・カンパラ首都圏における調理方法と木炭の需要―』についてお話しください。

ウガンダの首都カンパラで、調理品目と燃料の選択や種類について観察・計測した内容をベースに、この論文を執筆しました。2012年から2014年まで、断続的に合計11か月間にわたって現地に滞在し、そこに住む主婦の調理工程を観察したり実際に料理を手伝ったりしながら、データを集めました。
この論文では、私の中心的なトピックであるブリケットは扱っていません。調査地では木炭がもっとも一般的な調理用燃料ですが、なぜいまだに木炭を高頻度で使っているのかということを、この論文の中の一番のリサーチクエスチョンにして書きました。
そもそも、国の経済が成長さえすれば、調理に使うエネルギーも薪炭材からガスや電気へ移行していくと先行研究では考えられていましたが、経済成長だけでは語りきれないというのが結論です。特に私がここで主張したかったのは、その地域における食文化、食生活と調理方法をきちんと考慮したうえで、人びとは燃料を選んで使っているということです。高価だから電気やガスに手を出せないという理由だけでは決してなく、カンパラの食にはやはり木炭があっているのだ、そこを考慮しなければならないのではないか、というのがこの論文の主な主張でした。
カンパラでは経済的に豊かな人でも木炭を食事の調理に使っています。毎日、手間と時間をかけて料理しているのはなぜだろう、というのが最初の問題意識でした。ここをきちんと把握していないと、ブリケットという木炭の代替になるものが、ここの人に受け入れられるのか、それとも木炭を使い続けるのか、あるいはガスや電気など別の燃料を使うのかということがわかりません。調理方法や木炭の消費量を使っているのかということなども明らかにしないと、やはりブリケットの話はできないというのがきっかけでまとめました。

かまどで燃焼しているブリケット

かまどで燃焼しているブリケット

―ブリケットの話は序章の言葉ででてきたが論文では触れられていないのは、この論文のあと、調査を進めているということでしょうか。また、今のところどういうところまでわかってきましたか?

今年度、博士論文を提出し、一部にこちらの論文の内容も記述しました。博士論文では、調理場で消費される燃料の消費量に加え、調理時に出す廃棄物がどのようにブリケットとして姿を変え、どのようにまた調理場に戻ってエネルギーとして消費されるかを描くことに努めました。
投稿論文でも登場しましたが、調査地ではバナナが主食として多く食べられています。バナナは日本人にとっての米飯のような位置づけで、現地のことばに当たるガンダ語で「ご飯」に当たる語が「(調理された)バナナ」を指すときもあります。農村の近くで精製される穀類と異なり、バナナは台所で皮がむかれるので、調理時に大量のごみがでます。その皮からブリケットが作られます。
世帯の大きさにもよりますが、一度の食事の調理に排出されるバナナの皮の量から、1日に消費する調理用燃料の4分の1~3分の1の重量のブリケットが作られることがわかりました。また、ブリケットの消費者が調理の際にどうやって工夫しながら使っているかも、少しずつわかってきました。木炭に比べたらまだまだ消費量はわずかですが、毎日の調理用燃料にしている人も確実に出てきています。

ブリケットを製作中の男性

ブリケットを製作中の男性

―浅田さんの扱っているブリケットとは、ウガンダでは木炭の代わりに使うという捉え方でよろしいですか?

はい。ウガンダのブリケットは日本語では「練炭」などと呼ばれるものに近いと思います。英語のbriquetteは薪の代わりに使うもの含めますが。ウガンダで使うものはバナナの皮を炭化させてから作られるものが多く、私は木炭の代わりに使われるブリケットをおもに扱っています。

幹線道路沿いで販売されている木炭の袋

幹線道路沿いで販売されている木炭の袋

ー皮を集める方法などを浅田さんが提案されたりもするのでしょうか。

私から意見を提案したりすることはなく、基本的に現地の人びとを観察したりインタビューさせてもらったりします。私がウガンダに通い始める前から、現地にはバナナの皮を集めて燃料を作っている人がいるので、その人たちがどうやって加工しているかなどを調べています。

論文はまさに生活や文化に関するものだと思います。ご本人の言葉でいうと、論文と生活学の関連はどこにあるのでしょうか?

ブリケットを中心とした調査をアフリカでしていると、「アフリカなんて遅れた技術しかもっていなくって、外で作られた先進技術を教えてあげないといけない」、「木炭なんか使っていないでもっといいガス、電気を使うようにしないと」という外からの圧力のようなものがあるように感じることがあります。それは、外部の人だけでなく現地の為政者や研究者などの発言からも聞かれます。しかし私は、現地の人たちには現地の人たちの生活・文化・考え方があり、それらは長年にわたって変化しながら蓄積されたものであって、ときに革新的なテクノロジーによって、突然大幅に変わることもあるかもしれませんが、現地の生活や文化とかけ離れたものが外部から持ち込まれても根付きにくいのではないかと考えています。
もともとのそこの人びとの文化・生活をきちっと捉えたうえで、外から入ってきたものを彼ら自身が自分たちの生活に寄せて改変していくというプロセスがおもしろいと思っていますし、きっと重要になってくるのではないでしょうか。

都市の長屋で料理をする女性

都市の長屋で料理をする女性

こういった調査を海外の、生活・文化が異なるところに浅田さんが入ったとき、苦労したことや助かったことは?

現地の生活に慣れるまではすべて、何が起きているかわからないような状態だったので、「ここでは何が当たり前で、何が普通じゃないのか」ということについて戸惑いました。現地の人と実際に生活、手伝いする中で、そういうことを学んで慣れていくまでがたいへんでした。語学の面もそうで、なるべく現地語であるガンダ語を使ってコミュニケーションをするようにしていますが、ガンダ語の参考書は日本では手に入らないので、文法書を現地で買い、語学学校で1か月簡単な会話を習いました。英語と同じ単語が多ければ語彙を増やすのも楽だったかもしれませんが、一つひとつ覚えていかなくてはなりませんでした。幸い、ウガンダの人は英語もしゃべれるので、そこに助けられました。とはいえ、研究に関わる調理工程や食材の呼び方などの語彙は、英語で翻訳してもカバーしきれないこともあるので、そういうことは現地語でしか表現できず、ひとつひとつ覚えなければなりませんでした。
助けられたこととしては助手に恵まれたことです。私は調査の際に現地の家庭に居候させてもらいますが、その人から言葉も習い、身の回りの事(炊事・洗濯)もしてもらいました。それだけではなく、一緒に住んでいると見えてくるものもとても大きいのです。たとえば料理の仕方がそうです。「さっき夕方4時に火をつけたはずなのに、夜8時になっても食事がでてこない」など、外から観察だけではみえてこないことがありました。

調査助手の娘と友人(2013年撮影)

調査助手の娘と友人(2013年撮影)

 

ー現地の人たちに変化はありましたか?

私自身、お世話になっている家には行くたびにお土産と前回の調査で撮影した写真も欠かさずに持っていくようにしています。その写真を大事にとっておいてくれます。最後に行った去年2018年の頭に、調査を始めた2012年ころからずっとお世話になっている方の家のアルバムを見たとき、ところどころ私が撮影した写真があり、とても嬉しかったです。

(左)調査助手の娘と友人(2013年撮影)と5歳になった娘(2017年撮影)

5歳になった調査助手の娘(2017年撮影)

これからのご予定について教えて下さい。

博士論文審査が終わったところで、未定の部分が大きいですが、まずはウガンダの人が生ごみから燃料を作っているということについて、投稿論文などの成果として発表していきたいです。
また、これまでブリケットという新しい調理用燃料が調査地にどうやって根付いていくかということを、消費者の従来の生活様式や食文化と関連づけて調査をしてきたので、今後も同様のテーマで研究を続けてみたいという思いもあります。とくに再生可能エネルギーや廃棄物の再資源化といったトピックは日本を含めアフリカ以外の国や地域でも社会的な課題となっているので、関連づけられたらおもしろいのではないかと思います。

ーそうした成果を出す場としてどのようなところがありうるのでしょうか

エネルギーと生活の関係を地域研究の視点で、それもアフリカをフィールドとした研究は、日本ではまだそんなに開拓されていない分野です。日本生活学会をはじめとする、あらゆる学会や研究会で発表していきたいです。

ーこの論文で話されたことも、文化的にも持続可能なエネルギーという意味でも重要だと思いますが、アフリカ以外の地域や日本でもやってみるというような予定はありますか?

まだ具体的なフィールドとは出会えていませんが、火を使う調理もエネルギー消費も廃棄物の排出も、世界中で誰もが日常的にしていることなので、ぜひ開拓していきたいと思います。

生活学会会員や、広く社会に対してアピールしたいことがあればお願いします。

アフリカは、かつての自分もそうでしたが、想像しづらいような遠い世界ですし、人びとが何を食べたり着たりしているか、どう生活しているか知る機会がまだ少ないと思います。ですが、意外と私たちの生活に通じる部分や私たちがアフリカから学べる部分もたくさんあると思います。自分たちに通じるものを研究成果として発信していくことで、日本との共通点や共感する部分など、何かそういう理解に繋がったら嬉しいと思っています。そういうところが伝えられるようにこれからも研究を続けて、精進していきます。
建築の分野からも論じられるというご指摘を受けて、論文の図を見直してみると、「あ、そうだったのか」という気づきがあります。地域研究ではあらゆる学問分野の視点から多面的に地域を理解していくので、それぞれの分野で詳しい人からぜひ新しい視点を教えていただきたいです。また、アフリカではどうなんだろうとかいう疑問が出していただけたりして、何か共同で調査ができたら、とても嬉しいです。

ありがとうございました。

(インタビュー日 2019年3月12日)

インタビューを終えて(インタビュアーの一言)

世界は広く、それぞれの土地でそれぞれの文化が根付いていることを改めて強く認識させられるお話でした。主食としてのバナナが現状では電気をエネルギー源をした調理法では「美味しく」調理できないということですが、木炭などを用いた調理法の特徴を丁寧に分析して、日本のお米を美味しく炊けるようにした電気炊飯器の技術を応用した「電気バナナ調理器」などの開発につながり、また1つ新しい生活文化が生まれる可能性があるのかなと思いました。(真鍋)

調理に使うエネルギーによって味が違う(気がする)のは、日本での暮らしでもみられることで、おもしろくうかがいました。バナナは、皮がエネルギーになるほか、たとえば茎を紙にしたものもあります。生活に身近な食べ物を余すところなく活かす生活の知恵もまた、いろいろな地域にありそうで、興味がわきます。生活学会会員とのリエゾン調査も楽しみですね。(笠井)

「日本生活学会の100人」は、日本生活学会の論文発表者、学会賞受賞者、生活学プロジェクトの採択者から、若手会員を中心に学会員の興味深い活動や思考を掘り起こし、インタビュー形式の記事としたものです。